不正・不祥事 と 「経営者の心に取りつく呪縛」
長年にわたり企業の不正や不祥事の対応にたずさわっていれば ”経営者の呪縛” とも思われる心理が見えてきます。
この呪縛に経営者は「適切な判断」という思考を奪われているのです。
更にこの呪縛は、
・会社に長く勤めれば勤めるほど
・会社に忠誠心が高ければ高いほど
・会社に貢献をしようと思えば思うほど
・従業員を守りたいと思えば思うほど
強くなります。
ようするに、いちずな経営者ほど ”この呪縛は強く働く” のです。
しかもこの呪縛はとても厄介です。
では、なぜこの呪縛が起こるのかおわかりでしょうか。
そこには人間の「顕在意識」と「潜在意識」が大きく関わっています。
この2つの意識がなぜ経営者を束縛するのか。
そのメカニズムを理解すれば呪縛の対処法が見えてきます。
「顕在意識」と「潜在意識」が形成されるメカニズムは......
■「顕在意識」と「潜在意識」は、多くの文献で ”海に浮かぶ氷山” だと例えられています。
海面に出ている部分が『顕在意識(表面意識)』で海中に隠れている部分が『潜在意識(無意識)』で、人間にはこの2つの意識があります。
顕在意識(表面意識)は、
決断力の基になる、「理性や知性」と「意思や思考」で、
物事の、
「善・悪」
「好む・好まない」
「望む・望まない」
「取る・取らない」
これらを ”分別ふんべつ・判断・決意・識別” する意識ですが、この意識はそれほど強力ではありません。
だから優柔不断な思考や行動が起こるのです。
今日の昼食は ”絶対に和食だ!” と自分の意志で決めたのなら、それは顕在意識が決めたことになります。
しかし、同僚に強く ”今日は洋食だ” といわれれば、〜ん... 洋食もわるくないなと、意志が変わります。
このように顕在意識は、仲の良い同僚や身近で起こる出来事や状況に大きく左右されます。
また、誰もが望む、「無用なトラブルは避けたい」、「組織の中では協調性は重要だ」「私生活は穏やかに過ごしたい」などの思いも顕在意識の中にあります。
潜在意識(無意識)は、
普段は意識することのできない「直感、感覚、感情、欲望、記憶、想像」で、日々の生活から受けた情報が無意識のうちに蓄積されている大きな倉庫です。だから氷山の海中部分に例えられます。
平時は顕在意識に隠れて表れることはありませんが、瞬時の判断や危機的状況など ”とっさ” の判断や行動が必要な状況に直面した時に表れます。
この意識、無意識であるがゆえにとても厄介で強力です。
(潜在意識はよく ”火事場の馬鹿力” にたとえられるようにとても強力なのです)
しかも無意識であるがゆえに、理性や知性が働かず何をしでかすか分かりません。
つい ”魔が差した” などの言動は、この潜在意識がしでかしたものです。
ここで日々の会社員勤めにおいて、(今回は私生活での出来事は除きます)
どのような情報があなたの潜在意識に蓄積されているのか思い起こしてください。
(繰り返し、何度も何度も言われる言葉は潜在意識に強く刻み込まれます)
多くの社員は入社時から上司より「会社貢献」という重圧を受けています。
いや入社前からです、就活面接で「あなたは会社にどのような貢献ができますか」と聞かれます。
だから入社前から、「どのような貢献ができるのか。どのような貢献をしなければならないか。」いろいろ考えたはずです。
入社後は、
・会社のために頑張れ、
・目標、ノルマは必達しろ
・無駄を無くし利益を上げろ
などで、貢献とは会社利益に貢献することだと強く意識するようになります。
更に出世争いがこれに加わります。
(会社利益に貢献した者は ”出世が早い” ことを目にします)
このため会社利益に貢献しなければならない思いは更に強まります。
そしてこの強い思いは幾度となく潜在意識に蓄積されるのです。
この状況下で
会社の存続にかかわる「不正」や「不祥事」が突然表面化すれば...
瞬時の判断と対処が求められることで経営者は冷静さを失います。
そして、潜在意識に刻まれた「会社貢献=利益」という意思が働き、つい「利益優先」の決断をしてしまうのです。
経営者の脳裏から ”利益” を取り除くことは困難です。なぜなら利益の最大化は経営者の最重要ミッションだからです。
そのため、経営者は「利益」という呪縛に苦しめられるのです。
これが冒頭にお伝えした経営者の呪縛のメカニズムです。
昨年は大企業の重大な不正が多く起こり、その経営者の誤った対処が社会問題になりました。
この誤った対処は、経営者に呪縛のように取りついた潜在意識が起こさせたと私は考えています。
では経営者に取りつく、この呪縛を封じ込めるには...
潜在意識は無意識下であっても、意識であることに変わりはありません。
だから訓練をすることで、この意識は変えることができるといえますが、そこには長期の時間を要することになります。
定年まじかな経営者にはこの時間はありません。
だから出来ることは下記の二つです
一つは、「危機的な時ほど、冷静になれ」ということです。
(冷静でいられる状況であれば、顕在意識によって適切な判断が出来ます)
俗な言い方ですが、”強く意識をしなければ潜在意識は抑え込めない” のです。
もう一つは、冷静な判断ができる「周りの人の力を借りる」。
自分一人で判断するのではなく、信頼できる方のサポートを受けながら ”事を進めて行く” ことです。
どれも目新しいものではありません、よく聞くフレーズです。
よく聞くということは、昔からよく起こる状況だということです。
それにもかかわらず不適切な対処は起こっています。 なぜ......
前置きが長くなりましたがここからが本論です。
不正や不祥事は必ず起こります。
重要なのは「不正・不祥事」を起こした後の対処です。
(未然防止が不要であるといっているのではありません)
この対処が適切であれば、会社の損失は一時的で留まり、早期のリカバリーが望めます。
「不適切な対処」に至る経営者は
・周りに信頼できる「知友」がいない。
・冷静さを保つマイドコントロールが出来ない。
それと、
・利益は「顧客(消費者)」がもたらすことを忘れています。
だから不正・不祥事の対処は、
周りのサポートを受け、冷静さを保ち、判断基準を会社の利益ではなく、
「顧客(消費者)利益」に置かなければなりません。
このことを潜在意識に刻み込むことができれば、パニック状態に陥っても冷静さを取り戻し適切な対処が可能になります。
- 2018.03.27 Tuesday
- 企業の不正・不祥事
- 18:37
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- by REPsコンサル 西野 泰広